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神戸地方裁判所 平成7年(ヨ)388号 決定

主文

一  本件申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

理由

一  申立ての趣旨と理由、債権者らの主張は、債権者らの「民事保全命令申立書」及び準備書面に記載のとおりであり、これに対する債務者の答弁及び主張は、債務者の答弁書、平成七年一〇月二日付準備書面及び同月一一日付準備書面に記載のとおりであるからこれを引用する。

二  債権者らの主張の概要及び争点

債権者両名は別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の共有者(各共有持分は三五分の五。)であり、債務者は本件土地に何ら共有持分権を有しない。本件土地を含む四筆の土地(同所四番五、四番四、四番一〇、四番一一)上に、債権者らの共有する専有部分、債務者の所有する専有部分、申立外丁原松子、同戊田竹子の共有する専有部分が一棟の建物となる別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)が存在していた。ところが、本件建物は平成七年一月一七日の阪神・淡路大震災で滅失した。従って、建物が存在していることを前提とする建物賃借権や空中権に基づいては本件土地を債務者は使用できない。にもかかわらず、債務者は、本件土地上に滅失した本件建物の瓦礫・廃材等を放置して本件土地の明渡しに応じない上、区分所有者集会と称する集会(区分所有関係自体消滅している以上右集会たりえない。)を開催し、本件建物の復旧決議を得たとして、本件建物の補修工事(一階柱等取替工事、建物本体移動工事等)に着手したものであるから、債権者らは債務者に対し、本件土地の共有持分に基づく妨害排除として、本件建物の修復工事の差し止め及び本件土地の明渡しを請求する。

本件事案での争点は本件建物が阪神・淡路大震災により滅失したか否かである。

三  争点に対する判断

《証拠略》によれば、本件建物の一階にある全部で一三本の柱の柱脚アンカーボルトが全数切断されたこと、それにより本件建物が南側へ約六八〇ミリメートル、東側へ約九〇から二五五ミリメートル移動し、北側が四七ミリメートル持ち上がり、南側が一〇六ミリメートル下がって傾いたこと、また一階の柱は強制変形を受けたための歪みが多いことなどの被災の事実が認められる。

しかしながら、《証拠略》によれば、本件建物の地下構造物は変形、ひび割れ、陥没等はないこと、二階部分以上は目視では大きな破損は見られなかったことなどの事実に加え、債務者は被災調査の結果前記被災の事実を認識し、それを前提に、債務者は、切断されたアンカーボルトを健全な部分まではつり出し、新しいアンカーボルトを溶接で継ぎ足した後、油圧ジャッキで本件建物を持ち上げ、建物の傾きを水平に直し、持ち上げている状態のまま一階の柱をすべて新しい柱(規格は昭和五二年新築当時と同規格のもの)と取り替え、別の油圧ジャッキを利用して建物を西側へ約八九から二五五ミリメートル、北側へ約六四〇から六八〇ミリメートル移動して元の位置に戻し、油圧ジャッキを縮め建物を降ろすというジャッキアップ工法をへて、今回の修復工事で新たに設置することになったベースブロック(超音波探傷検査合格済)で新しい柱の柱脚を固定したこと、また、債務者は、一、二階の天井の梁を超音波探傷検査で発見された損傷に応じ補強したこと、さらに、債務者は、新しい柱とベースブロック、同柱と一階天井梁との溶接部分などについて超音波探傷検査を行い、すべての検査箇所で規準に合格したこと、右修復工事にかかった費用は約一億三六四〇万円であったこと、これは建物取壊・新築工事に要する費用(約五億一六〇〇万円)の約四分の一で済んだことが認められる。

以上によれば、本件建物の躯体部分は、新築工事の約四分の一の費用で修復されたものである上、少なくとも建築当初(昭和五二年新築時)の強度は確保されたと考えられ、本件建物は滅失していないと言わざるを得ない。

四  よって、本件建物の滅失を前提にした債権者らの主張はその被保全権利の疎明がなく、債権者らの申立てはいずれも理由がないから、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事保全法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 山本由利子)

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